7年かけて新製品を開発
試作品ができると、半年くらいモニターで履いてもらい、意見をフィードバックしてさらに改良を加える。正式に商品化できるまで、約7年の月日がかかった。
「後から知ったのですが、父も耐油性の長靴を作ろうと研究していたようです。父のノートを見つけ、開発がうまくいかず苦しんでいる様子がわかりました。ですから完成した時、亡き父に『やっとできました。これで安心して市場の方たちに使ってもらえます』と報告したんです」
耐油性長靴を完成させた頃から、まわりの目が少しずつ変わってきた。「ウロコ印白底付大長」は一般客にも愛用者が多い。この商品は2017年、時代を超えてスタンダードであり続ける製品として、「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞した。
手ごたえを感じつつも、時々外の世界へ逃避したくなることがある、と嘉奈子さん。「去年も突然、北海道に行きました。ぼーっと景色を見ていろいろな方とお話をすると、気持ちも切り替わるし発見もある。帰りの飛行機の中では、販路拡大のことやお客さんのニーズなど、結局会社のことばかり考えていました」。
豊洲市場に来る一般客に向けたさまざまな商品開発や、オンラインによる販路拡大など、新しいことにも次々と挑戦。父の代までは試みられなかったきめ細かい商品説明を心掛け、時代のニーズに合った新しい「伊藤ウロコ」を模索している。
母親と交代して正式に5代目を継ぐ日も近い。「先代たちが築いてきたこの店を守り、いい状態で次に手渡すのが私の役目。私がやれることをやっていこうと、今さらながらに思います」。