病院による患者サービスの究極
実は病院のブランディングの重要性を実際に形として知ることのできる数多くのイベント開催もこの原田、武中のコンビに加えて、ノンフィクション作家・田崎健太さんという異能の知恵袋によって行われた。
映画監督の錦織良成さんを招いて院内で連続して映画上映を行い、錦織監督とともに原田さんと田崎さんはステージに上がってトークショーを展開した。
錦織監督といえば島根県出雲市に居を構え、東京ではなく過疎地から映画を発信し続けている。代表作は、名優に成長した濱田岳さんをオーディションで見出した名作『白い船』(2002年公開)、隠岐島の古典相撲を題材に家族の絆と地域の誇りを瑞々しく描いた傑作『渾身』(2013年公開)。
2010年公開の『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』は中井貴一さんが主演、各地で大ヒットとなった。その後も第40回モントリオール世界映画祭最優秀芸術賞をはじめ国内外の映画祭で高く評価された『たたら侍』(2016年公開)で知られる。
最新作は漫画家・谷口ジローの人気原作を映像化『遥かな町へ』(2026年秋公開予定)。鳥取大学も深い縁から新作映画をバックアップして、原田学長もこの作品にカメオ出演している。
そんな貴重な映画作品を連続上映し、市民や入院している患者にも見てもらう企画を実施し大評判となる。市民が病院の主催する病気予防講座や病院の取り組みをピーアールする市民講座は良く開催されているが、大学病院の大学祭とか特別なイベントでもない限り、病院の活動と直接関係しない映画イベントや文化講座をこんなに大々的に行っている病院は聞いたことが少ない。
錦織監督も「病院で何を話そう」と最初は戸惑い気味だったが、田崎さんのプロのインタビューと原田さんの好奇心あふれる優しいトークが、観客の心を掴む。映画で感動し裏話で映画を深く知るイベントは入院している患者や付き添いのご家族にも好評で病院を忘れるイベントとして大人気だった。
ここにも病院改革のヒントがある。「こんなことは病院ではやってはいけない」という常識。普通の生活なら好きな映画もいく。好きなファッションも着る。
「それが出来ないのなら、患者さんらには、せめて、本物の映画監督を呼んで名作映画という非日常を病院で味わってもらいたい」
原田さんの鋭い感性は、実は病院の患者サービスの究極ともいえる。
また、病院の事を市民や子供達にも知ってもらおうと、病院内のロボット手術室や診察室、ドクターヘリやドクターカーなどを丹念に見学できる院内ツアーを精力的に行ってきた。
市民の知らない最新の医療機器。病院の高機能。実際に部屋に足を運び、専門の医師や看護師が丁寧に説明する。
病気にならないと病院に行かない。こんな常識を打破して市民や病院を知る人たちに、この病院の大切な応援団やサポーターになっていただく。見学していただいた子どもたちには、病院の大切さやかっこよさを勉強してもらって、未来の医師や看護師になってもらいたい。原田さんの子供達への愛もこめられた企画。
訪れた市民や見学者には大変好評で、中には何度も訪れるファンも生まれたほど。県知事や国会議員はもちろん近隣の市の市長や議員はもちろんのこと、教師や観光協会のメンバーまで院内ツアーに訪れる。垣根のないオープン姿勢は、市民に「僕の病院、私の病院」という誇りを育んでいく。そのことはインターナルコミュニケーション(病院で働く人たちへの広報とモチベーション)の向上につながっていく。町の応援が病院を危機から救う最大の要因の1つであることも覚えておいて欲しい。
※本稿は、『病院がなくなる』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
『病院がなくなる』(著:結城豊弘/ビジネス社)
鳥取大学医学部附属病院はなぜ、勝てる経営を実現し、高度で優しい地域医療を提供できるようになったのか。
現場に立ち会った著者が、苦闘の日々を描く。
赤字に苦しむ病院へのヒントが満載の書。





