MARUU=イラスト

 

阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。海外旅行なんて、まさに「夢のまた夢」という昭和の初め頃の日本人と同じ心境になってきた昨今、阿川さんは、ふと「人はなぜ旅をしたがるのか」という思いに至ったそうで――。
※本記事は『婦人公論』2026年7月号に掲載されたものです

どこぞの国の大統領のせいで世界中が大混乱に陥っている。コメ騒動、円安騒動、地球温暖化、物価高騰などをなんとかしのいできた(というか継続中)ところへ、まさに弱り目に祟り目の石油危機。人々の生活がますます苦しくなるのは目に見えている。我が国のトップは「石油の備蓄はたっぷりあるから大丈夫」とおっしゃっているようだが、それとていずれ底を突くだろう。底を突く前にホルムズ海峡が完全に開放される保証はない。この戦争は思いのほか長期化するという推測も耳にする。

あーあ。なんたることでしょう。

海外旅行なんて、まさに「夢のまた夢」という昭和の初め頃の日本人と同じ心境になってきた。思い返せば去年の秋、へとへとに疲れながらも老夫婦のイタリア旅行を決行しておいてよかった。もはや死ぬまでイタリアなんて行けないかもしれない。

こうなったら国内旅行にシフトしよう。国内にもまだ行ったことのない場所、泊まってみたい宿はたくさんあるはずだ。現に少し前に訪れた京都がそうだった。プライベートと仕事を合わせて今まで何十回も行き、まあまあ知っている土地だと思っていたのは大いなる勘違いだった。七十を超えて初めて四条より上流の鴨川沿いの眺めに接し、そののどかな美しさに心が洗われた。これまではもっぱら祇園とその周辺をウロウロしていただけだったことを思い知る。よし、国内のどこに行こうかしらん。そんなことを企みながら、ふと思う。

人はなぜ旅をしたがるのか。