霧との再婚を告げると、麻子は強いショックを受けたようだった。

「霧さんと? なんで……」

「なんで、って……。お互い、残りの人生を一緒に過ごしたいと思ったから」

 麻子はしばらくの間呆然としていたが、やがて消えそうな声で呟いた。

「変だよ。今さら結婚なんてする必要ないよ。だって……」

「だって?」

「正直言って気持ち悪い」

 血の気が引いた顔ではっきりと身震いした。

「麻子、そんな言い方はやめて」

 還暦の母が結婚することについて、戸惑う娘の気持ちもわかる。だが、気持ち悪いと言われては聞き流すことはできなかった。

「……ごめん。私、ちょっとびっくりして……ごめんなさい」

 麻子の声が震えていたので、慌てて取りなした。

 最近、一人で出かけるようになったので回復したように思ったが、それは間違いだった。心の傷が一朝一夕で治るはずがない。やはりまだ心が弱った状態なのだ。通常の反応を期待してはいけない。

「いえ、お母さんも無神経だった。いきなりこんなこと言われたらびっくりするよね。でも、もう霧さんと決めたことなの。だから、麻子にも理解してほしい」

「……お祖父ちゃんはどうするの?」

「今度こそ施設に入ってもらう」

「お祖父ちゃんが納得するはずない」

「それでも入ってもらう。霧さんは引き取ってもいいと言ってるけど、霧さんに迷惑はかけられないから」

「じゃあ、私は?」

「麻子は家を出て一人暮らしをはじめてみたらいいと思う。あなたはずっと家にいて私を手伝ってくれた。今まで本当に感謝してるし……本当に悪かったと思ってる。だから、これからは自由に生きてほしいの」

 麻子は黙りこくっている。考えが甘かった、と今さらながらに自分の能天気さを恥じた。麻子が祝福してくれるだろう、自由を喜んでくれるだろう、と浮かれて思い込んでいたのだ。 

「ねえ、結婚って……プロポーズしたのは霧さん?」

「それはそうだけど、でも、二人で決めたことなの。どっちから、って言うようなもんじゃない」

「そう。じゃあ、考えてみる」

 力のない返事だったが、これで切り上げることにした。麻子にも時間が必要だ。自分たちの都合で押しつけてはいけない。