「なに?」
「私も麻子もこの家を出ていきます。お父さんは一人で暮らせばいい」
「私を見捨てるつもりか?」
「ここはお父さんの家なんでしょう? いつも言ってるじゃない。誰のおかげでこの家に住めると思ってるんだ、って。住まわせてもらって申し訳ないから出て行くの」
「じゃあ、誰が私の世話をするんだ」
「ヘルパーさんが来ます。私も顔を出します。問題ないでしょう」
「この恩知らずが。今まで誰のおかげで暮らしてこられたと思ってるんだ。みんな私のおかげだろうが。おまえ一人じゃなにもできないくせに」
「できる。私も麻子もなんでもできる」
「女子供になにができる。笑わせるな」
父は激昂している。だが、私は自分でも驚くほどに冷静だった。
「私は好きな男と暮らすためにお父さんを捨てるのよ。たとえお父さんが孤独死しようと構わない」
きっぱり言い切ると、父は何かわけのわからない唸り声を上げ、それから怒鳴った。
「おまえは出て行け。その代わり麻子を置いていけ。あれに世話をしてもらう」
「いえ。麻子も出て行く。お父さんの世話なんかさせるつもりはない」
「黙れ。あんな出来損ないの引きこもりの役立たず。家を出て生きていけるものか。誰が手術費用を出してやったと思ってるんだ」
「お父さん、もう黙って」
私は怒りのあまり目の前がくらくらした。今にも倒れてしまいそうだ。
