麻子の了解を得たことで私は一つ問題をクリアしたような気になっていた。だが、本当の問題はこれからだった。再婚を父に告げると、怒鳴られた。

「六十にもなってみっともない。ふしだらなことをして、恥を知れ」

 私は懸命に説明するが聞き入れてもらえない。父はマグカップや茶碗、スプーン、薬袋など、手当たり次第に物を投げつけた。

「私の世話を誰がするんだ。親を見捨てる気か」

「見捨てるわけじゃない。きちんとした施設に入るほうがお父さんのためになるから」

「私のため? 嘘をつくな。男と一緒にいたいから、私を施設に追いやるんだろう」

「お父さん。聞いて。家での介護はもう限界なの。もう無理なのよ」

「わがまま言うな。この怠け者が。なにが無理だ。おまえが無能だからだ。他の家はちゃんとやってるだろうが」

 どうしてここまで罵られなければいけないのだろう。何十年もひたすら父のために介護と家事をやってきた。私も麻子もボロボロになるまで耐えてきたのだ。

 泣き出したくなるのを懸命に堪え、父にきっぱりと言った。

「もう決めたことなの。お父さんは施設に行くんです」

「ここは私の家だ。死ぬまでここで暮らす」

 なんと言っても無駄だ。私は覚悟を決めた。

「わかりました。じゃあ、ここで死んだらいい」