数年前にもらったカブトムシの子孫が、今年もベランダで羽化したというマリさん。大きな水槽の中で暴れるカブトムシたちを見て、思い出したのは――。(文・写真=ヤマザキマリ)

羽化したカブトムシ

数年前、佐賀県で昆虫採集をした時に、地元の農家のおじさんにもらったカブトムシの子孫が、今年も元気に東京の仕事場のベランダで羽化した。なんとなく飼育していたら、毎度きちんと交配が行われ、次なる遺伝子が残される。

いつまで飼育が続くのか見当もつかないが、子どもの頃から昆虫好きで家の中で蝶やトンボを放し飼いしていたこともあり、カブトムシたちとの共生は決して嫌ではない。

ただ、彼らは芋虫の時代こそ温厚に過ごしているが、羽化して身を守るための固い甲冑とツノを装着したとたん、たちまち攻撃的になる。誰彼構わず喧嘩をけしかける者、逃げようとする者、諦観して落ち着いている者など、その個体差は甚だしい。カブトムシなんて皆同じだろう、などと思っているととんでもない。

私が大きな水槽に設(しつら)えた彼らの居住空間は、なかなか悪くない。山形から取り寄せた最高の腐葉土とくぬぎの枯れ葉、北海道の森で見つけてきた立派な木の枝など、息子に言わせると環境は「一人一泊10万の高級旅館並み」だが、残念ながらカブトムシにとって水槽は、ただの窮屈な空間でしかない。

毎年何匹かは水槽からの脱出を図るが、カブトムシは図体が大きいので飛翔が軽やかではなく、簡単にカラスに目をつけられる。実際、私の目の前から飛んでいったオスのカブトムシは、飛び立つや否やどこからともなく飛んできたカラスに捕獲されてしまった。

私としては、なるべく水槽旅館で穏やかに一生を過ごしてもらいたいと思うのだが、どんなに快適でもやはり狭さには耐えられないらしい。