最強の認知症の備え
長谷川:スウェーデンでは、市町村や教会、退職者クラブなどが協力して、「社会的孤立」を防ぐ取り組みをしています。というのも、85歳以上の約7割が一人暮らしだから。私の住む街では、市が「お茶飲み友達マッチング」を勧めていて、外出が難しい高齢者と、話し相手になってくれる近所の方を結びつけているんです。
山口:「認知症への備え」で言えば、一番大事なのは「家族や周りとの良い関係作り」だね。あるバリバリのサラリーマンが、現役時代に家庭をほったらかしにしていたせいで、退職後に認知症になったとたん、奥さんから「あんたの面倒なんて見たくない!」って施設へ送られちゃったんだ。伴侶を大事にしておくことは、実は最強の認知症への備えかも(笑)。
長谷川:スウェーデンでは、高齢になっても夫婦で手をつないで散歩する姿をよく見かけます。手をつながなくなると、相手を大切に思う気持ちを伝える機会が減ってしまいます。まずは、夫婦で手をつないで歩いてみませんか。相手の歩く速さに合わせる――そんな思いやりこそが、山口流「最強の認知症の備え」になりますね。
宮本:残念ながら文化の違いもあり、日本では中高年の夫婦が手をつないで歩く姿は、あまり見かけません。むしろ高齢のご夫婦が手をつないでいると、「どちらかが認知症なのかな?」と思われてしまうことがあります。
※本稿は、『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
日本では介護のために離職する人が年間10万人に上るが、スウェーデンでは家族に介護をする義務はない。
両国の違いはどこからくるのか。そして、認知症の人と家族の幸せとは……。
85~89歳の3人に1人、90歳以上の2人に1人が認知症になる時代に、認知症の医療と介護のあり方を考える。
出典=『認知症でも私のことは私が決める-日本の不自由とスウェーデンの自由』(著:宮本礼子、長谷川佑子、山口晴保/中央公論新社)
宮本礼子
介護老人保健施設アートヒルズ医師
1954年生まれ、東京都出身。介護老人保健施設アートヒルズ医師。日本尊厳死協会理事。2006年から認知症診療に従事し、江別すずらん病院認知症疾患医療センター長を経て現職。精神保健指定医。日本老年精神医学会・日本認知症学会専門医・指導医。「高齢者の終末期医療を考える会」代表(2012~23年)。「レビー小体型認知症サポートネットワーク札幌」顧問医師(2012~23年)。共著書『欧米に寝たきり老人はいない(中央公論新社、2015)』『認知症を堂々と生きる(同2018)』『欧米に寝たきり老人はいない 増補版(同2021)』。読売新聞ヨミドクター共著連載記事「今こそ考えよう高齢者の終末期医療(2012)」「高齢者の終末期医療はよくなったのか(2023)」「日本とこんなに違うスウェーデンの高齢者医療・介護(2024〜25)」。
長谷川佑子
スウェーデン王妃認定認知症専門看護師
1980年、埼玉県生まれ。兵庫県立看護大学を卒業後、虎の門病院にて勤務。2008年にスウェーデンへ移住し、カロリンスカ大学にてEU看護師免許を取得。ウプサラ大学アカデミスカ病院の老年急性期病棟で勤務の一方、スウェーデン王妃認定認知症専門看護師(シルヴィアナース)、高齢者ケア専門看護師となる。現在は高齢者入居施設での認知症ケアに携わるかたわら、ブレーキンゲ工科大学修士課程にて地域専門看護師を受講。日本の認知症ケア専門士研修や大学等での講演、読売新聞ヨミドクターでの連載(2024〜25)を通じ、現地の看護・介護の最前線や、海外での子育て事情を発信している。
山口晴保
群馬大学名誉教授
1952年、群馬県高崎市生まれ。1976年、群馬大学医学部卒業後、大学院で神経病理学を学んだ(医学博士)。1980年、群馬大神経内科に入局。1986年、群馬大医療短大理学療法学科に移り、理学療法士・作業療法士の教育に従事。脳活性化リハビリテーション5原則を提唱。米ハーバード大に留学。蘭ライデン大学客員教授を経験。認知症専門医に。2016年、群馬大学大学院保健学研究科教授を辞し、認知症介護研究・研修東京センター長として認知症ケアを研究し、「認知症ポジティブ」を提唱。現在は常勤職を辞し、余生を楽しんでいる。日本認知症学会名誉会員。著書に『認知症ポジティブ(2019)』『認知症予防・第3版(2020)』(いずれも協同医書出版社)など。