薬だけじゃない ― うつ病治療で注目される“新しい選択肢”

「抗うつ薬を3種類試しました。でも、ひとつは全く効かず、かえって症状が悪くなりました」

――そう話すのは、イギリス中部に暮らす大学講師のアメリアさん。子どもの頃からうつ症状に悩み、長年、抗うつ薬による治療を続けてきました。しかし、大きな改善は見られず、仕事を休職せざるを得ない時期も。夫や高校生の息子に心配をかけていることも、アメリアさんを苦しめていました。「人生の大半を、生きていたくない、この世から消えてしまいたいと思いながら過ごしてきました」――初対面の私たちの前で、アメリアさんはこれまでの人生を率直に語ってくれました。

そんな彼女に、大きな変化をもたらした治療があります。微弱な電気で脳を刺激する「tDCS〈経頭蓋(けいとうがい)直流電気刺激〉」です。頭にヘッドセット型の機器を装着し、スマートフォンのアプリを使って治療を行います。

 

微弱な電気で脳を刺激する「tDCS(経頭蓋(けいとうがい)直流電気刺激」を受けるアメリアさん(画像提供:NHK 以下すべて)

 

アメリアさんは主治医の指導のもと、1日30分の治療を続けました。すると、わずか2週間後には変化を実感。長年悩まされてきたうつ症状が大きく改善したのです。夫のカラムさんも、「以前は難しかった散歩などの外出ができるようになりました」と、その変化を嬉しそうに話します。そしてアメリアさんは、こう語ってくれました。「今では、幸せや喜びを感じられるようになったんです」――長い間、当たり前のように失われていた「喜び」が、少しずつ日常に戻ってきた――その言葉は、取材をしていた私たちの胸にも深く残りました。

アメリアさんのうつ病を改善したtDCSは、日本では医療機器として未承認ですが、磁気で脳を刺激する「rTMS〈経頭蓋(けいとうがい)磁気刺激〉」は、全国100以上の病院で受けることができます(※抗うつ薬で効果がない場合に保険適用)。

番組では、うつ病の最新研究をひもときながら、これまでの治療で良くならなかった患者さんたちの期待を集める、新しい治療の可能性を詳しくお伝えします。