1人ひとりに合った「うつ病治療」を目指して――脳科学がひらく新たな可能性
「うつ病は、ひとつの病気ではありません。うつ病の脳活動には異なる特徴があり、1人ひとりに適した治療が必要なのです」――そう語るのは、アメリカ・スタンフォード大学教授のリアン・ウィリアムズさんです。精神科医であり、神経科学者でもあるウィリアムズさんが進めているのは、うつ病患者の脳活動を詳しく調べ、その特徴、つまり「タイプ」に応じて、より適した治療法を選べるようにしようという研究です。これまでのうつ病治療では、まず抗うつ薬などを処方し、その効果を見ながら次の治療を考えていくことが一般的でした。しかし、同じ「うつ病」と診断されても、症状の現れ方や治療への反応は、人によって大きく異なります。「最初から、その人に合った治療を選ぶことはできないのか」――ウィリアムズさんは、そんな問いに、脳科学の視点から挑んでいるのです。
ウィリアムズさんの研究の原点には、彼女自身の人生を大きく変えた出来事がありました。およそ10年前、パートナーをうつ病による自死で亡くしたのです。「彼は、うつ病に対する偏見(スティグマ)を恐れていました。職場でも病気のことを打ち明けられず、限界まで苦しんでしまったのです」――パートナーを失った深い悲しみが、ウィリアムズ博士を新たなうつ病研究へと向かわせたといいます。ウィリアムズさんが目指しているのは、うつ病を「心の弱さ」として捉えるのではなく、うつ病による脳の働きの変化を客観的に捉え、患者一人ひとりに合った治療へと結びつけていくことです。