捨てきれないものも…

一方、引っ越しの際に捨てきれないものもありました。それは夫の服です。85平米のマンションに住んでいた当時、1部屋はまるごと夫の衣装部屋になっていました。部屋の両サイドに洋服ダンスがぎっしりと並び、バブル世代の夫が20代のときに買ったDCブランドの服、肩パッドがでかすぎるスーツ、バーゲンで買って一度か二度着ただけの奇妙な色の服などが詰まっていました。

引っ越しに際して何度も捨てるようにお願いしたのですが、明らかなるゴミは処分してくれたものの、「でもこれ高かったから」「まだ着られるから」「思い出があるから」……と、数百枚あった服のほとんどは踏ん切りがつかないまま、新居に持ち込まれたのでした。

引っ越した当初は、荷物の半分以上が夫の洋服で、クローゼットとして使っているスペースに入りきらなかったため、カラーボックスを追加で購入して収納していたのですが、暮らし始めて1カ月ほど経ったある日、突如「もう着ない服は捨てる」と、古い服をまとめて手放したのです。急な心境の変化についてたずねたところ「急に目障りに感じた」とのこと。実はこれ、押し入れのふすまをとっぱらってオープン収納にしていたのが功を奏したようで、改めて自分のワードローブを見渡すとどれも時代遅れで、執着していたことがバカバカしく思えたのだそう。

夫はそれまで「ブランドの服をたくさん持っていて、高級な外車に乗っている」ことがイケてることだと思っていました。それが、小さな部屋で暮らすうちに、価値観に劇的な変化が生じたのです。

実は私も私で、どうしても手放せないものがありました。それはCDです。ピーク時は2000枚近く所有しており、結婚を機に600枚ほどまで減らしたものの、考えてみると頻繁に聴くのは、同じCDばかり。

「なぜ、私はこんなにもCDをたくさん持っているんだろう……」。執着の正体について考えた結果、私にとってCDは、音楽を聴くためではなく、誰かが家に来たときに「すごいね」「詳しいんだね」と言ってもらうための舞台装置でした。同じことは、レコードやバンドTシャツ、マンガ、DVDにも言えました。そう気づくと、大量に所持する必要はありません。手元には数枚だけを残して手放しました……と言いたいところですが、結局捨てきれずに300枚を残しました。夫にはあんなに手厳しかったくせに、自分のこととなると話は別です。結局、夫よりも私の方が、執着を捨てきれませんでした。せめてものあがきとして、プラケースを捨て、中身をファイルに詰め替えることで、収納の「体積」だけは徹底的に削ぎ落としました。

借金のない清々しさと、2人で納得して選んだ50平米の部屋。それだけで気分はルンルンでしたが、服やCDを減らしたことで、「モノは多ければ多いほど豊かである」という思い込みや、「他人からの評価を欲しがる承認欲求」といった、見栄までも捨てることができました。引っ越しで多くの荷物を手放してから、暮らしも気持ちもぐっと軽やかです。

※本稿は、『小さく暮らす: 25平方メートルのゆたかな生活』(新潮社)の一部を再編集したものです。

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『小さく暮らす: 25平方メートルのゆたかな生活』(著:大木奈ハル子/新潮社)

10年間で引越5回。

わが家が狭くなるたびに、暮らしに心地よい風が吹くようになった。

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