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『かもめ食堂』『れんげ荘』などで人気のエッセイスト・群ようこさん。70代になった群さんが、家が嫌だった子どもの頃、転職を繰り返した若い頃など、これまでの人生を振り返った著書『この家に生まれたことが失敗だった?』より、一部を抜粋して紹介します。

物忘れとおっちょこちょい

50代までは誕生日を迎えても、それはそれだけのことだが、60歳は還暦、70歳は古稀(こき)、77歳は喜寿、80歳は傘寿、88歳は米寿、90歳は卒寿、99歳は白寿、100歳は百寿と、特別に祝われる。昔の人生50年を考えると、60歳を過ぎて生きているというのは、おめでたいことなのかもしれないが、私が60歳になったときは、友だちが、

「還暦だね」

といってくれたけど、私自身は特に何とも思わなかった。ただ60年もよく生きたものだと思った。

たとえば何かの品物があって、

「これは60年前のものですよ」

といわれたら、

「へえ、長い間、残っていましたね」

と感心するけれど、いざ自分のことになると、

「もうそんな年齢になりましたか」

といった感覚しかなかった。編集者や友だちが集まって、イタリアンレストランで還暦祝いの食事会を開いてくれて、とてもうれしかったのだけれど、次の日からはいつもの生活に戻った。