白鳥蔵を訪れた。いつもはプリンなので、今日は鯛焼きを持っていった。
「こんにちは」
店に入ると、剣人が掃除をしていた。
「あ……いらっしゃいませ」
掃除の手を止めてこちらを見る。陰になっているので顔がはっきりとはわからなかったが、なにか違和感を覚えた。
「霧さん、いますか?」
鯛焼きを差し出すと、剣人はすこしためらってから受け取った。
「はい。呼んできます」
以前なら、元気いっぱいで迎えてくれたのに、声の調子にためらいが感じられる。なんだか歓迎されていないような気がした。
仕事中に何度も訪れてやはり迷惑だっただろうか。厚かましいと思われているのだろうか。それとも、うちと同じで、ここでも反対されているのだろうか。
奥から霧が出てきた。
「こんにちは」
軽く頭を下げると、霧も微笑んだ。もう客ではないので「いらっしゃいませ」を言わない。こんなことが嬉しいのだ。すこしほっとした。
二人で外に出た。気候がいいので今日は喫茶店に入らず、ぶらぶらと町を歩くことにする。ひとしきり新居の話をした。霧は蔵に通わなくてはならないので、できれば蔵に近い富田林市内に住む方がいいのだ。
「一度、ご挨拶にうかがおう」
「霧さん、気を遣ってくれるのは嬉しいけど、父に挨拶に行っても嫌な思いをするだけです。父は普通じゃないから」
「だとしても、筋を通さないわけにはいかない」
霧の決意は固いようだ。私は諦めて話題を変えた。
「剣人くんはなにか言ってましたか?」
「なにか?」
「さっき挨拶をしたとき、なんだかいつもと感じが違って元気がなかったので」
すると、霧がわずかに眉を寄せた。今日は日傘を差していないので表情がよく見える。
「木綿子さんにもそうか。たしかに最近ちょっと様子がおかしいんだ。ぼんやりしたり、突っかかってきたり。……まあ、そのたびに瀬良に叱られてるんだけどな」
「もしかしたら私が苛々させているのでは?」
「まさか。あいつはあれですごく気を遣うやつだから。苛々しているとしたら、君にではなくて自分にだろう。すこし話を聞いてみよう。……それで、麻子ちゃんは変わりないのか?」
「それが、実は……」
