珠のエンジンのひとつが清治
連続テレビ小説には様々な父親像が出てくるが、清治は独特だ。働かず、強権的でわがまま。それでいてどこか哀愁を漂わせている。ただ、単なるダメな父親としては描かれていない。言葉にはなっていなくても清治の佇まいから、生きづらさや苦悩が伝わってくる。
「岩国での話は基本的に、宇野千代さんが書かれた話をもとにしています。家父長制の中でのひどい父親像だと一面的に描くことはしませんでした。珠と清治の間に何が通っているのかを見せることが、珠のキャラクターの礎を作る。珠が長い人生を走り抜ける上で、清治の存在はエンジンのひとつになっていきます。だからこそ逃げずに描きたかったです」と明かす。
将来作家の才能を開花させる珠にとって、清治の存在は大きかった。第1週で珠は、「父について書くように」と教師から宿題を出される。悩みながら書いた作文は、ありのままの清治を描いたもの。自分や家族への厳格さと同時に、夜中にカナリアを愛おしそうに見つめる清治の姿を通して、その孤独を浮かび上がらせた。授業参観に来た清治は珠が読み上げたその作文を意外にも喜び、帰り道、商店街の人たちに作文を見せて回った。
人を観察し、内面を捉えられる珠には、文学者としての才能あった。しかし、絶対的な存在である清治がいることで、家庭内には緊張が走り、珠は自分らしく生きることを考えられない状態だった。だが、ある日、清治の体調が優れず医者に見せると、重い病気にかかっていることがわかる。そして、第10回でついに清治が死去する。そのエピソードは強烈だった。