殺し合いを避ける「暗黙のルール」があった?
先述したカー・チェイスと同様、冷戦期の記録を調べてみても、CIAやMI6のオフィサーと、ソ連のKGBが異国の街角で派手な銃撃戦を繰り広げた事例は、意外なほど多くない。
その背景には、インテリジェンスの世界におけるある種の「紳士協定」があったともいわれる。もちろん、実際に協定が結ばれていたわけではない。ただ、とりわけ外交官などの公的身分で活動する情報機関員の間では、互いの存在をある程度把握しながらも、直接的な暴力は避けるという不文律が働くことがあった。
銃撃事件が起きれば、単なる工作活動では済まされず、国家間の重大な外交問題へと発展しかねない。さらに、長い年月をかけて築き上げた潜入網や情報源が一瞬で失われる危険もある。
情報機関にとって最優先なのは、敵を倒すことではなく、情報を集め、将来の活動基盤を守りつづけることなのである。