相手の心理を読み合う「静かな駆け引き」

では、現実のスパイたちは、何によって勝負しているのだろうか。

彼らの任務の中心は、暴力によって敵を排除することではない。相手国の中枢へ入り込み、有益な情報にアクセスできる人物を説得して協力者にすること。あるいは、自国に潜入した敵の工作員や協力者を見つけ出し、情報漏洩を防ぐことにある。

冷戦期から現代に至るまで続いているのは、相手の心理や人間関係を利用した静かな駆け引きだ。どの人物を味方につけるか、どの情報を流し、どの情報を隠すか。さらには、第三国への影響力をめぐる競争も繰り広げられてきた。

銃声を響かせれば、その瞬間に秘密工作は秘密ではなくなる。だからこそ、相手に気づかれないまま情報を得て判断を動かすことにこそ、プロの技量が問われるのだ。

インテリジェンス機関の本当の戦場は、戦場の最前線ではない。人間関係や心理、そして国家の意思決定の内部にこそあるのである。

※本稿は、『面白すぎて時間を忘れる「スパイ」の世界: 実在のスパイから世界の秘密工作まで』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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