(写真提供:Photo AC)
現在TBSで放送中の日曜劇場『VIVANT』の続編が、2026年11月8日に最終回を迎える予定です。堺雅人さん演じる主人公・乃木憂助が所属するのは、極秘スパイ組織「別班」。映画やドラマに度々登場するスパイですが、その実態はよく分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。インテリジェンスを専門とする東京工科大学教養学環教授・落合浩太郎先生は、スパイについて「映画より冷酷で、ときに不憫で、驚くほど人間くさいプロフェッショナルたち」だと語ります。そこで今回は落合さんの著書『面白すぎて時間を忘れる「スパイ」の世界: 実在のスパイから世界の秘密工作まで』より一部を抜粋し、ミステリアスで刺激的な「スパイの世界」をお届けします。

スパイに採用される人は、どんな人?

映画『007』のジェームズ・ボンドのように、高級なタキシードを着こなし、世界の命運を賭けたド派手なアクションを繰り広げるヒーロー像は、エンターテインメントとして非常に魅力的だ。

しかし、こうした虚像は、現実の情報機関にとっては、ときに業務の障害になり得る。あまりに世間の幻想が強すぎるため、各国の情報機関は、公式サイトなどを通じて、こうしたイメージが現実とは異なることをわざわざ発信しているほどだ。

実際、映画『007』の新作が公開されると、CIAやMI6の採用特設サイトには、スクリーンの中のヒーローに憧れた世界中の若者たちからの応募が殺到し、サーバーが一時的にパンク寸前に追い込まれることもあるという。

組織がわざわざ現実を突きつけるのは、職務を誤解した志願者を減らし、真に適性のある人材を確保するためでもある。

「007の見すぎ」――フィクションと現実は大違い

2021年、ジェームズ・ボンドが所属している(設定の)イギリスの情報機関、MI6の長官は、公式の場において「#ForgetJamesBond(ジェームズ・ボンドを忘れろ)」という、前代未聞のハッシュタグを掲げてメッセージを発信した。

そしてこれに呼応するかのように、2022年にイギリス国内で中国のスパイ活動に対する批判が高まった際、中国外務省の報道官は「イギリス側は『007』の見すぎだ」と言い放って反発した。このようにフィクションのイメージは、国際政治の現場にまで影響を与えているのだ。

これに対し、アメリカのCIAも公式ホームページ上に「スパイをめぐるよくある神話」を紹介するページを設け、映画やドラマによって生まれた誤解を否定している。

外国でのド派手なカー・チェイスや、ハイヒールのかかとに仕込まれた盗聴器などは、あくまでドラマの世界の産物だ。現実の職員の多くが担っているのは、変化しつづける世界の中で、地道に情報の収集や分析を重ねる専門的な任務なのである。