痛めつけるほど、「真実」から遠ざかる?
こうした強硬な尋問の有効性をめぐっては、同じアメリカ政府内でも長年にわたり激しい対立が続いている。
当時のCIA幹部らは、「強化尋問によって重要な対テロ情報を得られた」と主張した一方で、米上院調査委員会やFBIの尋問担当者らは、その効果に強い疑問を呈している。
FBIのベテラン尋問官たちが重視するのは、暴力ではなく「ラポール(信頼関係)」の構築だ。相手の話を丁寧に聞き、家族や故郷の話題を共有し、ときには好みの煙草や食事を提供する。そうして心理的な壁を下げることで、初めて本音が引き出せるという考え方である。
実際、拷問には大きな欠点がある。人間は極限の苦痛に置かれた際、真実を話すとは限らない。むしろ「この苦しみを終わらせたい」という一心から、尋問官が聞きたがっている答えを作り上げてしまうことが少なくない。
情報機関にとって一番恐ろしいのは、情報が得られないことではなく、「もっともらしい偽情報」をつかまされることだ。誤った情報は分析を狂わせ、ときに国家の政策や戦争判断さえ誤らせる。だからこそ現代のインテリジェンスの世界では、暴力よりも心理学や信頼関係を重視する方向へと、少しずつ軸足が移りつつあるのである。