へその緒は、はっきり切っておかないと
三十何年も私と一緒に暮らしてきた母が、戦後念願かなって、弟夫婦の家へ引きとられることになりました。母は末っ子の弟を溺愛していました。私は母によくよく注意しました。弟はもう一家の主人であり、主婦はその妻であること。弟の身のまわりの世話や家事一切は主婦にまかせて、相談された時以外は口を出さないこと。
「これからの家庭は夫婦単位よ。大人になった子と母のへその緒は、はっきり切っておかないと子供たちにうっとうしがられますからね」
働き者で子ぼんのうの母にとってはきびしい言葉ですが、母は「うん、うん」ときいていました。利口な弟の妻は、その母の心を察していろいろ相談してくれたので、母の晩年は幸福でした。
あなたはまずご主人と話し合うことです……母と子のあり方について。その上でご主人がご自分の手で「へその緒」を切る手術をなさった方がいいと思います。それでないと、せっかくのご主人の才能も、いつかのびなやむ時が来るような気がします。
(「毎日新聞」1969年10月4日)
※本稿は、『わたしの人生案内』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『わたしの人生案内』(著:沢村貞子/中央公論新社)
恋愛・結婚、人間関係、介護、死別、生きがいについて……随筆家としても知られる名脇役の下にさまざまな悩みが寄せられた。
ときに厳しくも機微にふれる回答には、二度の離婚と三度の結婚を経て、人生の裏表を知った著者の濃やかな優しさがにじむ。
初書籍化となる新聞連載の人生相談83篇に、女性の生き方をめぐる随筆を併せた一冊。





