世界を駆けてきた漫画家で文筆家のヤマザキマリさんも、新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言下の自粛期間には、家に閉じこもらざるを得ませんでした。東京の自宅で、さまざまなことを考える中、気になった一つがアイドルの存在だそうで、特に松田聖子さんの歌う様子には心を強く惹かれたと言います。曰く「松田聖子はアイドル界のカエサルだ!」
※本記事は、9月10日発売の『たちどまって考える』(ヤマザキマリ・著 中公新書ラクレ)の一部を再構成した記事です
※本記事は、9月10日発売の『たちどまって考える』(ヤマザキマリ・著 中公新書ラクレ)の一部を再構成した記事です
普段考えないようなことを意識した自粛期間
パンデミックが起きて以来、自宅にいる時間が増えたおかげで、普段なら特別意識しないようなことまで考えるようになりました。たとえば「アイドル」についてです。
母がヴィオラ奏者ということもあって、私にとって生まれたときから音楽は常に身近にあるもので、なくてはならない存在です。現在も連載中の『プリニウス』(新潮社)の共著者であるとり・みきさんとのバンドではボーカルを担当し、ボサノバやジャズなどを歌ったりもしています。
ただし音楽ばかり聴いていると、思考を働かせて「学習する」ことをなおざりにする傾向が強くなりがちです。人は特に苦境に置かれると、考えることを放棄して、言語化が不要のエンターテインメントという易きに流れる傾向がある。もちろん、エンタメは私たちのメンタリティにとって大事な栄養素ですからそれはとてもいいことなのですが、加減が必要ではないかとも思うわけです。
そこで私のお勧めは、音楽を聴きながらの読書。または普段聴いたこともないようなジャンルの音楽を聴いてみる。適度な癒やしを得ながら、脳への刺激になるような気がします。
なお、この機会にあまり聴いていないジャンルの音楽として私が選んだのが、松田聖子さんの楽曲でした。私は彼女のアイドル全盛期をリアルに体感していた世代ではありますが、今回の自粛期間中に何とはなしにあらためて聴いてみて、彼女の歌唱力にしみじみ感動したのでした。日本での学生時代はまったく歌謡曲を聴かなかった私にとって、衝撃的な発見でした。そして、彼女のカリスマ性があれだけのファンをつくり、女性たちに強い影響力を与えた、アイドルという社会現象が気になり始めたのです。