マンガから見る「一匹オオカミよりグループ」の時代
「ソロからグループへの変遷」は、漫画の世界にも言えることです。 たとえば昭和の時代に人気を博した漫画といえば、『あしたのジョー』(高森朝雄〔梶原一騎】原作、ちばてつや画)、『タイガーマスク』(梶原一騎原作、辻なおき画)、『仮面ライダー』(石ノ森章太郎)といったものがあります。
ここでお気づきかと思いますが、これらはすべて”単独ヒーローもの”でした。
一方、近年人気の漫画作品はほぼすべて”グループもの”です。『ONE PIECE』(集英社、尾田栄一郎著)もそうですよね。それから『進撃の巨人』(講談社、諫山創著)に『NARUTO―ナルト―』(集英社、岸本斉史著)も。物語のなかのメインキャラクターは設定されているものの、活躍するのはグループです。そしてグループになったことで、たとえば敵と戦う際の役割や特技が分散化されています。
なぜ昭和では一匹オオカミが受け入れられたのか
人気というものは、人々が何を求めているかを表した一つの指標とも言えますが、今の時代、漫画は「皆でやる」というスタイルの物語でないとウケないのだそうです。昭和の子どもたちが胸を熱くした、一匹オオカミの孤児のヒーローは、今や若者たちが感情移入できないものらしい。
ヒット作にここまで顕著に出ていると、「そういう時代になったのだな」と世の移り変わりを感じざるを得ませんよね。かつては孤児という立場など、子どもの頃から家族に恵まれず、いつも一人で修羅場に立ち、苦境に追い込まれ、恥をかきながら、苦しみもがきながら、涙を飲みながら、一人で奮闘するという人に、誰もが憧れました。映画『男はつらいよ』(山田洋次監督)の”寅さん”こと車寅次郎だって、まわりに個性的なキャラクターが配されているとは言え、一匹オオカミ型のヒーローだと言えます。
というふうにコンテンツの変化から見ても、現代は”ゆるい”ほうにシフトしているのだと思います。そしてグループを求める傾向には「間違えないように」、「失敗しないように」といった現代の社会そのものを覆う行動パターンの力学が働いているような気がする。
昭和のあの頃、単独アイドルや一匹オオカミが受け入れられていたのは、戦後の日本社会に満ちていた熱くエネルギッシュな復興力が、まだ生きていた時代だったからなのかもしれません。
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