幸か不幸か

いつか邦枝完二(くにえだかんじ)と一緒にお茶を飲みに入った。

と、邦枝君は彼女を見て云った。

『宇野千代をめぐる男たち』(編:中央公論新社)

「……迚(とて)も素敵だね。あんなのが張り落せたら、大したもんだがなア。」

僕は其張り落すと云う言葉を、失礼なとも感ぜずに、微笑を含んで云った。其時分もう二人でだけは、向うも信頼して、散歩する事ぐらいは許していたから。

「そうかなア。――若しそう云う事があったらどうする?」
「奢るよ。」

併し、幸か不幸か、真に邦枝を奢らせる迄行きはしなかった。……