私はすべてを手放すことになる

20年以上も風を通していない家がどんなことになっているのか想像もつかなかったので、「なんだか怖いね」と言いながら、鍵を開けてそーっと中へ入りました。でも思っていたより傷んでいなかったのです。

これが海の家だったら潮風に晒されて朽ちていたことでしょう。のちに知ったところによれば、寒冷地である山梨の河口湖周辺の家は耐久性が高いのだとか。

(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

でもトイレの蓋を開けたら、なんとネズミが死んでいて、「ギャー!」。

どうしようと娘と考えた末に、前述した先輩に相談しました。すると知り合いの方を紹介してくれて、ほどなくして大きなトングのような器具を持った役所の方が来てくださり事なきを得たのでした。

その後も、怖い怖い、ネズミが怖い、もしかしたら、まだどこかにいるかもしれないとおののきながら、家の隅から隅まで点検して回りました。

結果、掃除をして少し手を入れれば暮らせることがわかりました。

しかも平屋の家は全体的にゆったりとした造りで、廊下の幅も広く、車いすでも余裕で過ごせます。

これだけのスペースがあれば、家の中で母と顔を突き合わせて暮らすこともない。それぞれの部屋で過ごして、食事の時だけリビングに集合するということならストレスはかなり軽減できると思いました。

山梨に住むしかないのかも、と心が大きく揺れたあの日、すでに私が母の介護をすることは決まっていたのかもしれません。

でも私はまだ迷いの中にいました。移住すれば、私はすべてを手放すことになる。都会の快適な暮らしも人間関係も仕事も。

それは私の人生が停滞することを意味するのだわ、などと考え始めたら、どうしても勇気が出なかったのです。