イラスト:泰間敬視
「食事中に時々むせる」「硬いものが噛みにくくなった」と感じる人は、口の機能の衰えが始まっているかもしれません。はじめは些細な症状でも、放置すれば全身の不調を引き起こす可能性も。口から喉にかけての機能の衰え「オーラルフレイル」の原因と予防について、高齢者医療が専門の飯島勝矢先生に聞きました(構成=村瀬素子 イラスト=泰間敬視)

しっかり噛んでちゃんと飲み込むには

たとえば、歯槽膿漏で歯茎が弱ってきた、義歯が合わないなどのトラブルがあると、硬いものが噛みにくい、噛めない、という状態に陥ります。また、お茶や味噌汁などを飲んだときに「むせる」のは、飲み込む力が衰えている兆候。

このほか、滑舌が悪くなった、食べこぼす、口が乾く、という症状は、舌や唇の筋肉の衰えや唾液分泌量の減少が要因です。こうした口から喉にかけてのさまざまな機能の衰えを総称して「オーラルフレイル」(フレイルとは虚弱の意)と呼んでいます。

年齢を重ねるほど筋肉を作るたんぱく質を積極的に摂るべきという情報を耳にしたことがあるでしょう。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、高齢者(65歳以上)は、体重1kgあたり1.0g以上のたんぱく質を摂取することが望ましいとされています。体重が60kgならば、1日に60g以上のたんぱく質を摂取すべきということ。目安として、豆腐100gに含まれるたんぱく質は5g、鶏肉100gでは25gです。

たんぱく質が含まれる肉、魚、豆類などを摂取するには、しっかり噛んでちゃんと飲み込む力が不可欠ですが、オーラルフレイルが進行すると、それが次第に困難になっていきます。食べることは生きる原点であり、口の健康は非常に重要。でも口のトラブルは軽視されがちではないでしょうか?

私は高齢者医療にかかわる前、心臓の専門医をしていました。「ちょっと動悸がする」「少し胸がチクチクする」といった比較的軽い症状でも、みなさん心臓の疾患を疑うとすぐに受診されます。ところが口に関しては、歯が多少痛くても深刻な状況になるまで歯医者に行かない、食事中にむせても「年のせいかな」で片づけてしまう、という方が多いのです。命にかかわるかもしれないという危機感が薄いからでしょう。

ですが、口や喉の些細な衰えを放置すると、やがて負のスパイラルにはまっていきます。たとえば、硬いものが噛めなくなると、自ずと軟らかいものを好んで食べるようになり、噛むために必要な口の周りの筋肉を使わなくなるので、咀嚼機能が徐々に低下。食べこぼしや、むせることが増えれば、やはり食べやすいものばかり選んだり、食欲が落ちたりするため、栄養バランスが乱れて低栄養状態を招きます。