真っ白で挑む舞台が楽しみ
9月からは東京で舞台が始まる予定です。劇作家・演出家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんが緒川たまきさんと旗揚げした新ユニット「ケムリ研究室」の旗揚げ公演、『ベイジルタウンの女神』に出演させていただきます。舞台は、こまつ座の『木の上の軍隊』以来、1年ぶりです。
今回、新たな気持ちでKERAさんの舞台に臨みますが、KERAさんは稽古をしながら作品を作り上げていくスタイルということで、僕の役についてはまだ何も聞かされていないのです。もうそろそろ稽古に入る段階ですが、ざっくりした内容しか明かされていません。出演者のみなさんもたぶん同じでしょう。
そんな状態を不安に感じるかというとそうでもなく、フラットな状態で稽古をするのは、自分は意外に心地良いと感じます。早めに台本が渡されるとついつい読みこんで、自分が考えた通りの、独りよがりな表現になってしまうこともあります。
ところが実際にお稽古に入ると、演出家が求めている言い方とは違うこともあれば、相手役の人が僕の想像していたお芝居をしない可能性もある。台本がなくてまっさらな状態で稽古に臨むのが今回の舞台のスタート。上演までの稽古は苦しむでしょうが、それもまた楽しみです。
公開延期になっている映画『燃えよ剣』の新選組、斎藤一役は、楽しくてとても刺激のある役どころでした。映画も時代劇も、殺陣も初めて。未経験だということをすべて原田眞人監督にお伝えして、オーディションに臨みました。
初めてなりに一生懸命演じましたが、何かが原田監督のアンテナに引っかかってくださったのか、出演させていただくことに。史実では斎藤は左利きとされているので、左利きの僕を選んでくれたのかもしれません。
原田監督は、役者が持っている力を楽しんでくださる方。そのぶん役者の考えがまとまらないまま軽い気持ちで臨んだ時は、とんでもないことになりました。「ここでこういう芝居をして」と指示され、瞬時に演出意図を把握して、自分は何ができるかを探す。それをテストで見てもらってOKが出ます。自分なりの、役に没頭した前のめりな演技を、監督がとても楽しんでくださって、映画は瞬発力が必要なのだと学びました。
映画、ストレートプレイ、ミュージカル、ドラマとやってきて、芝居の仕方も変わるということが、自分なりにわかってきました。舞台と映像では求められることが違う。僕自身、出る場所によって芝居の仕方を極力変えるようにしています。
今の日本では、各ジャンルに垣根があって、そこを越えて演じる俳優はまだまだ少ないような気がします。特にミュージカル俳優は、ミュージカル中心に活動し、ドラマに出ても歌うような役どころが多いですよね。
僕は縦横無尽に、垣根を越えてあらゆる分野を行き来できる俳優になりたい。歌って踊って、もちろん芝居もきちんとできる俳優になりたいと思っています。八郎も僕、斎藤一も僕。これからどんな役をいただけるかはわかりません。しかし、いただいた役を自分が、どう全うできるかを大切にしていきたいです。
スカーレットの八郎に出会うまでの10年。以前の自分なら、よくやったと自分をほめるかもしれません。でもここからがようやくスタートなんだと実感しています。
どんどん変わっていく自分に、そして、どこまで変わっていけるかに興味があります。それが試せる場所があれば、僕はいつでも挑戦したいと思っています。