撮影:村井理子

もう、一歩たりとも動けない

発病当時47歳だった私にとって、多少の体調不調はすべて、更年期障害というひと言で片付けられるものだった。今思えば、もっともっと自分を大切にしていればよかった。何もかも更年期障害だと片付けるなんて、自分に対するとんでもないネグレクトだ。でも、世の中の大半の人が40代後半の女性の体調不良に抱くイメージは、更年期障害一択ではないだろうか。なんてひどい。いい加減にしてくれと怒りたくなる……自分に対して。だって、そんな決めつけを甘んじて受け入れていたのは、誰よりも、自分自身だったからだ。2年半前の私は、自分の体調不良の原因が更年期障害だと信じて疑わなかった。自分のことをないがしろにしていた。ある日、体中がむくみ、呼吸が苦しくなるまで……。

愛犬の散歩をしていたときだった。その日は朝から腹部に違和感があって、お腹が張って仕方がなかった。呼吸も浅く、犬と一緒に歩くことがとても辛くて、いつものルートの田んぼのあぜ道で、足が止まってしまったのだ。私が歩みを止めると、犬も止まって、私の顔をじっと見上げた。私も犬の顔を見つめ、そして気づいた。もう、一歩たりとも動けない。その瞬間にはじめて、自分の体に大きな異変が起きていることを確信した。

這うようにして家に戻ったが、腹部の張りは酷くなる一方だった。そのうち、座っていることも難しくなってきた。ソファに横になり、重い両脚を肘掛けにのせた瞬間だった。足首がむくんでいることに気づいたのだ。たまたま在宅していた夫に声をかけた。

「どうしよう、体中がむくんでる」―夫は驚いた表情をしていたが、まさか私がかなりマズい状態になっていることなど想像もしていなかっただろう。私自身は、この時点ですでに腹をくくったような心境だった。これは、何かおかしなことが起きている。普通ではない。今すぐにでも、病院に駆けつけなければならない。近所にある大きめの病院にすぐさま電話を入れ、時間外であったが診察してもらえることになった。