榎木 時代劇の仕事では、実在の人物をいろいろ演じてきましたが、そもそも、歴史は勝者が書き残したもの。負けたほうに正義があったのかもしれないのに、勝者の都合で美化されている可能性が高い。嘘がいっぱいあるんですよ。
ヤマザキ それは同感です。私は『プリニウス』という作品で古代ローマの皇帝ネロを描いていて。ネロといえば、暴君とか、キリスト教の迫害者のイメージなんですが、これも結局はキリスト教側からの見方でしかないわけです。だから10巻もかけて、かわいそうな社会の被害者として描いちゃった。
清水 ヤマザキさんは、作品を描いているとき、登場人物が乗りうつったようになるの?
ヤマザキ なりますね。正直、キリスト教の描き方について、非難する人もいるかもしれない。でもネロの気持ちになったら、そう描かざるをえなかった、というか。
清水 イタコのようだね。
ヤマザキ しかも、ネロが自死したシーンを描いた日が、偶然にもネロの命日だったんですよ! まるで意識していなかったのに!
清水 うわー。合理的な説明のつかない不思議なことって、本当にいくらでもあるもんなんだね。
ヤマザキ ただ、これを夫に話すと、「はじまった、またマリの超常現象話が……」ってなっちゃう。
榎木 イタリア人は、理解できませんか。
ヤマザキ みんな合理主義ですからねえ。いまのイタリアの自宅を見つける前に、別の物件を内見したんです。800年前に建てられた塔で、不動産屋さんが意気揚々と「ここで60人が討ち死にしてます!」って勧めてくる。そういうお国柄です。
榎木 信じなければ、怖くもないし、見えることもないんでしょう。
<後編につづく>
清水ミチコ
タレント
1960年岐阜県生まれ。モノマネをはじめとするお笑いにとどまらず、女優、司会、エッセイ執筆など幅広く活動。『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』(テレビ東京系)、『ラジオビバリー昼ズ』(ニッポン放送)にレギュラー出演。YouTube「清水ミチコのシミチコチャンネル」で撮り下ろしネタを公開。著書に『カニカマ人生論』『まるい三角関係~三者三様おしゃべり三昧』などがある。全国ツアー「清水ミチコ万博~ひとりPARADE~」開催中。詳しくは公式サイト4325.netをチェック!
榎木孝明
俳優
1956年鹿児島県生まれ。武蔵野美術大学デザイン科に学んだのち、劇団四季に入団。退団後、朝の連続テレビ小説『ロマンス』でテレビデビュー。数多くのドラマ、映画で活躍する。大河ドラマ『麒麟がくる』に出演中
ヤマザキマリ
漫画家・文筆家・画家
日本女子大学 国際文化学部国際文化学科 特別招聘教授、東京造形大学客員教授。1967年東京生まれ。84年にイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。比較文学研究者のイタリア人との結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2015年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2017年イタリア共和国星勲章コメンダトーレ綬章。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著)第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』『ムスコ物語』『扉の向う側』『貧乏ピッツァ』など。現在、『続テルマエ・ロマエ』を集英社「少年ジャンプ+」で連載中、2巻が好評発売中。*Photo:ノザワヒロミチ