託児所での経験は自分にしか書けないこと

労働が視野を広げ、書くことの糧となっていく。04年にブログを開始し、翌年にはデビュー作を上梓。06年、41歳で長男出産後、貧困地域の慈善施設内にある無料託児所で見習いを始めて、保育士資格を取得した。息子を預けながら保育士として働いた経験をもとに、17年、暴力とドラッグと虐待が連鎖する底辺社会を描いた『子どもたちの階級闘争』を出版。


書き始めた元々は、セックス・ピストルズのジョン・ライドンのファンサイトを立ち上げたこと。50歳になる頃に、「Yahoo! ニュース」で政治のことを書き出したら、一気に読者が広がりました。でも、これは私にしか書けないと思ったのは『子どもたちの階級闘争』でした。とくに二部には無料託児所で働き始めてブログに書いた記事を、そのまま載せています。

保守党政権による緊縮財政が始まり、貧困層が締め付けられた歴史的な時期に、ああいう特殊な託児所で働いていた日本人は私しかいなかったのでは。私自身貧しい育ちだったし、母親が何日も帰ってこないような友だちもいたけれど、「底辺託児所」にいたのはそれ以上にきつい環境に置かれた子どもたちでした。

「ちゃんと子どもを育ててくれよ」と目を覆いたくなるようなケースが多くて……。愛着を知らず、感情が発達していないために人を傷つける子どもたちを見ていると、落ち込んで、「行くのはやめよう」と思ったこともありました。

原稿の半分は酒を飲みながら書いています。自分のために書いたんですね。子どもたちに髪の毛ひっぱられたり、毎日大変なことばかりだけれど、不自由な身体で凶暴な子を抱きしめる男性のボランティアに出会ったりするんです。ああいう場所にこそ、すごく美しい瞬間があるんだということを書きながら、自分を励ましていた。あれはもう二度と書けない。

日本でも格差と貧困化が進んでいますよね。私が日本を出た頃は全然そういう感じはなかったし、10年前だってそんな意識は薄かった。でも、新自由主義に舵を切った弊害がここにきて顕著になり、「子ども食堂」や「フードバンク」が話題になって、「日本もヤバい」とみなさん、思い始めたんじゃないでしょうか。以前は「特殊な英国の事情」として読まれていた私の本にも、「日本と同じだ」と感想が寄せられています。