ところが世の人は、なにか不安材料があると悲観的になりがちです。今年はとくにコロナのせいで、ネガティブな気持ちになっている人が多いようですね。
コロナに関しては、私も新聞やテレビの報道をよく見ています。ただし一喜一憂せずに、冷静に見るようにしていました。感情的に見ると、精神がやせてしまい、ろくなことはありませんから。人間、いざ思いがけないことや困難に遭遇した時、一番邪魔になるのはなんだと思いますか? 実は「感情」や「情念」といったものなのです。
人間は、肉体と精神でできています。肉体の健康を維持するためには、食糧が必要。ではもう一方である精神の健康を維持するにはどんな食糧が必要なのかというと、「理性」や「理知」です。ところが不安や困難に見舞われると、理性が吹っ飛んでしまいがち。つい、泣いて嘆いて愚痴をこぼしたり、落ち込んだりしてしまいます。なかには、お酒に頼る人もいるでしょう。
でも、それで問題解決になるのかと言ったら、なんにもなりゃしない。心を病んだり、胃が悪くなったりするだけです。だったら、どうしたらいいのか。
感情を全部追い払うのです。要は理性を働かせて、石像のように冷たく沈着になることです。そして今やるべきことを整理して、優先順位をつけていく。家族や職場など対人関係の問題、健康不安、経済不安、どれをまず解決すべきか。そのためにはどうすればいいのか、方法論を冷静に考えることが大事です。
もし心身の健康に不安があるなら、どの病院の何科に行くのか。場合によってはセカンドオピニオンを求め、納得のいくところに決める。
そんなふうに整理していけば、悩んだり、苦しんだり、怒鳴ったり、憂鬱になって人にあたる必要も時間もないはずです。
アナログ文化を学び直し、できることを見つけて
とはいえ今年のような状況では、家族ともディスタンスを取らなくてはいけない、外出を控えて何もかも我慢しなくてはいけないなどと考えているうちに、鬱々としたという方もいるでしょう。こんな時こそ、文化が人を助けてくれるのです。
私は家にこもっている間も、とくに滅入ることはありませんでした。音楽を聴いたり、画集を眺めたりして楽しんでいました。ひとりでトランプゲームもしましたよ。
音楽といえば、昔から歌い継がれてきた唱歌や童謡を紹介するテレビ番組が、最近けっこう人気だそうです。昔の歌曲や唱歌には、文学者が歌詞を書いたものがたくさんありますね。たとえば「赤とんぼ」は三木露風作詞で、「からたちの花」や「曼珠沙華(ひがんばな)」は、北原白秋の詩に山田耕筰がメロディをつけたものです。
大正から昭和初期に作られた唱歌は、メロディも美しいものが多い。音楽は、メロディ、ハーモニー、リズム、強弱の4つが揃わなくてはいけませんが、昔の唱歌にはそれらがあります。そうした歌を聴くと心が和むのは、日本人の求める姿がそこにあるからではないでしょうか。