『婦人公論』12月22日・1月4日合併号の表紙に登場している美輪明宏さん(表紙撮影:篠山紀信)

絶望しそうになったら歴史を振り返るといい

今年は新型コロナウイルスの影響で、私も舞台やコンサートが開催できませんでした。日本だけではなく、世界全体がそういう状況ですから、しかたありません。そしてこういった感染症の流行は、何も今回が初めてのことではないのです。

中世ヨーロッパではペストが大流行しましたし、20世紀に入ってからは日本にもスペイン風邪の嵐が吹きました。聖書に出てくるソドムとゴモラの町も「神が罰を与えて滅ぼした」と書かれていますが、たぶん疫病で滅んだのだと思います。疫病は、大昔から何度となく流行ったはず。今年はちょうど、その年に当たってしまった、ということなのです。

飲食業や中小企業の経営者など、困っている方も多くいらっしゃるようですし、雇用する側もされる側も、手探り状態のはず。なかには仕事を失った人もいると思います。多かれ少なかれ、困っていない人は誰もいないでしょう。

この先どうなるか、確かなものが何もないわけですから、不安に思う方が多いのもいたしかたありません。だからといって、コロナのことばかり考えていると、絶望的になります。

そんな時は、歴史を振り返ってみるといいと思います。江戸時代には天明の飢饉など、数々の危機がありました。この100年を見ても、関東大震災で東京はほぼ壊滅し、戦争で日本は徹底的にやられてしまったではありませんか。でも関東大震災で何もかも失われた後に、日本のアールデコともいうべき素敵な文化が生まれました。戦後の復興も、皆さんよくご存じのはず。

どんな時にも、人間は生きてきました。私など、長崎で原子爆弾の投下にあった被爆者ですが、それでも生き延びてきたのです。人間の復活力や生命力は、たいしたもの。私が長崎から東京に出てきたのは終戦後、まだ焼け跡から人々が立ち上がりはじめたばかりの頃でした。皆、バラックに住んでいて、闇市があった時代です。そこから日本は復興を果たしました。

ですから、絶望することはありません。経済的に逼迫しても、何があっても、「それでも生きていくんだ」という強い思いを心に持つことが大切です。