医師が去ったあと、私はすばやく財布を手にし、カーディガンを羽織って病室を出た。鼻歌交じりにエレベーターのボタンを押し、何気なく待合室のほうに視線を向けると、ベテラン&フレンズがこちらを見ていた。私は、気づいていないふうを装って視線を外し、到着したエレベーターに乗り込み、「閉」ボタンを高速連打しつつ、「なんか見てたし」と口にした。

入院患者にとってはオアシス

動き出したエレベーターは、数十秒後に私を地下へと連れて行った。私はスキップせんばかりに薄暗い廊下に出た。その薄暗い廊下から、少し奥まったところに売店はある。今現在は某コンビニチェーンの店舗になっているが、私が入院していた当時は、病院によくあるタイプの普通の売店で、店の前に小さなテーブルとイスが4脚ほど置いてあるだけの、なかなかどうして寂しい雰囲気の店舗だった。

入院患者のオアシス・病院の売店(撮影:村井理子さん)

その寂しい雰囲気の店舗であっても、入院患者にとってはオアシスである。私は心の底からうきうきしつつ、店に入って商品を眺めた。塩分を制限しなくてはいけないことは、私のメンタルを破壊した心不全手帳を読んで知っていたので、ポテチやクッキーなどは避け、のど飴を手にした。涙ぐましい努力だ。

そして飲み物の入った冷蔵庫の前に立ち、商品を眺めた。ひとつひとつをしっかりと見つめる。きらきらと美しい。病院の売店で見る商品は、すべて宝石のようにきらきらして見える。私は「ドデカミンストロング」というドリンクに手を伸ばした。なんとなく、どでかい気分で過ごしたかったからだ。私は退院するその日まで、ドデカミンを験担ぎで飲み続け、そして今でも時折飲んでいる。