第1回が配信されるやいなや、大きな話題になった翻訳家・村井理子さんの隔週連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」。47歳の時に心臓に起きた異変。村井さんは心不全という診断にショックを受ける。その上大部屋の隣の患者(通称「ベテラン」)の振る舞いに追いつめられ、個室へ移動することに。早速仕事モードになった村井さんだが、担当医に「できる限り、ゆっくりしてくださいね」と言われ意気消沈。しかし、処方された利尿剤が村井さんを悲しみに浸らせてくれないのだった……。『兄の終い』の著者が送る闘病エッセイ第6回。

前回●悲劇の病人モードの私が、利尿剤によって救われた話

心臓よ、犯人はお前だったのか

小さな青い利尿剤を飲みはじめて2日目の朝(もちろん、夜中もトイレに通いっぱなしだ)。歯を磨いていてふと気づき、息を呑んだ。鏡に映る自分の顔が変わっているのだ。いや、変わっているというよりは、本来の自分の顔に戻っているのだ。

これは一体、どういう現象なのか。確かに、鏡に映るこの顔が、私の本来の顔だった。ずいぶん長い間、この顔を見ていなかった気がする。ファンデーションの色が合わないのも、肌がくすむのも、まぶたが厚くなったのも、すべて年齢のせいだと思っていた。しかしこの日の朝に、すべてがはっきりした。心臓よ、犯人はお前だったのか。

鏡をじっと見つめながら、心の底から驚いていた。顔が戻っている。元の形になっている。目も、鼻も、口も、間違いなく自分のものだ。思わず手で頰のあたりを触れてみて、再び驚愕した。

ゆゆゆ、指が! 細くなっている! 元に戻っている! 大慌てで両手を見た。裏表、まじまじと眺めてみた。確かに私の手だ。ここのところしばらく見ていなかった。指輪がきつくなったのも、爪の形が変わったのも、ペンを握りにくくなったのも、すべて年のせいだし、更年期だし、太ったせいだと思っていた。しかし、心臓よ、お前だったのだな!