のど飴とドデカミンを手にした私は、店舗の前に設置されていたイスに座りながら、書籍の棚を遠目に眺めていた。病院内で売れ筋なのは、やはり健康関連書籍のようだ。ウォーキング、減塩、ストレッチ……ふぅん、こういう雑誌が売れるのかと考えつつ、棚の下側を見ると、そこには幼児向け雑誌、小学生向け書籍、絵本が並んでいた。
そうか、子どもも入院しているんだ。突然、しんみりとした気分になった。絵本。入院していた子どものころ、毎日、毎日、絵本を読んだ。その多くの絵本のなかの1冊は、橋本くんが病院まで持ってきてくれたものだった。
橋本くんは、私が小学校1年生のとき、同じクラスにいた男の子だ。私は入院・手術のため、小学校1年のほとんどを欠席していたが、入学式から数週間は学校に通っていた。そのとき、仲良くなったのがとても大人しい橋本くんだった。橋本くんは、私が入院すると知ると、少し寂しそうな顔をしていたように思う。
担任の先生が私を黒板の前に立たせ、「理子さんはしばらく学校をお休みします」と生徒たちに言っていたそのとき、悲しそうな顔をしてくれたのは橋本くんだけだった。だから橋本くんのことはよく覚えている。そして、私には、橋本くんに謝らなければならないことがある。どうしても謝りたいと思いながら、ここまできてしまった。
私は橋本くんのことを思い出しながら、売店の前でしばらく座っていた。
【この連載が本になります】
『更年期障害だと思ってたら重病だった話』 村井理子・著
中央公論新社
2021年9月9日発売
手術を終えて、無事退院した村井さんを待ち受けていた生活は……?
共感必至の人気WEB連載、書き下ろしを加えて待望の書籍化!
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