約束の日、娘が電話をかける

結局、約束の期日が来ても連絡はなかった。弁護士から「連絡がなかった場合、娘さんが連絡し、返事次第では家裁で手続きをしてください」とアドバイスを受けていたので、娘が電話をかけた。ひさしぶりの声。

「どうしてるの、お父さん。きちんと話し合いに応じて、父親として誠意を見せて。『男だから』って言ったでしょ。もうこれ以上私たちを苦しめないで」。娘の涙交じりの声が響く。「ごめんって? いつ話し合うの? 出てこないなら出向くわ。がん? がんってなに」。

夫は再び倒れ本宅近くの病院に搬送、検査の結果、肝臓がんの宣告を受けたという。娘に電話を代わってもらう。「がんって本当?」「ああ」「なぜ連絡をくれないの? あなたは娘まで見捨てるつもりですか。口をつぐんだままじゃない」「……あの人に車椅子を押してもらっている生活なんだ、自分だけでは外に出られない」。

ああ、なんということ。万事休すだ。これでは家裁の調停も不成立に終わるだろう。絵に描いたような泣き寝入りになる。これからの生活を考えれば、こちらから弁護士など雇えない。

26年前、夫に会おうとする私に父が、絞り出すように言った。「お前はそれでいいのか。ひとつの家族さえ守れない男は、必ず次もだめにするぞ。子どもはここで、お前が働きながら育てればいい」。翌年、父は亡くなった。あの時の私は、あまりにも若すぎた。