『今も未来も変わらない』第1話より(イラスト:丹羽庭)

「こんな人いる?」から「もっと聞かせて」に

――単行本のカバーイラストは『トクサツガガガ』の漫画家の丹羽庭さんですが、連載中の挿絵も丹羽さんだったんですよね。

長嶋 星子と志保がアニメの話題で盛り上がるんですが、いまやゲームや漫画やアニメの話をてらいなくする40、50代女性が身近にいるなという認識が僕のなかに出てきました。ただ、その人たちが30代のときは、そういう話題をペチャクチャ喋ったりしていなかったような気がするんですね。

『トクサツガガガ』で描かれているものがいみじくも表しているのは、連載開始の頃は、主人公のOLがじつは特撮好きで、余暇の時間を全部特撮に費やし、部屋の中はフィギュアだらけ。だけどそのことが世間にバレないようにしているというコメディなんです。つまり数年前まで女性のオタバレっていうのは社会の中でかなり特殊なものがバレちゃうことで、隠すことが当たり前の振る舞いだった。

それが、しだいにオタク的なことやネット的な言説みたいなものが語られるようになってきた。そんななかで女性たちともカジュアルに、ネタが通じるやりとりができるようになった感じが僕自身にあって。

――今回の作品で初めてそういう女性たちを描くことができた、と。

長嶋 10年前は、こういう女性たちが身近にいても小説には書けなかったです。受け止める側が「こんな人いる?」みたいになったと思う。僕は作家の川上弘美さんとは90年代頃から普通にオタクの話題で盛り上がっていました。そんな川上さんも、別に隠していたわけではないだろうけど、公の場で「仮面ライダーが大好きです」とか言うようになったのは結構最近じゃないかな。平成ライダーを語ることに「価値」が出てきた。川上さんがそれを『ユリイカ』という雑誌で言うのに違和感もないし、むしろ深い考察を聞かせてくれと、受け止める側がなってきたんだと思います。

『トクサツガガガ』も時代に歩調を合わせるように、オタバレを防ぐ話から事実上堂々と特撮を語る漫画になった。そして、旧弊な「女子たるもの」という価値観の母親と対決するという今日的な親子の話になっていきました。

丹羽さんに挿画を頼んだのは、連載として面白くなるからというのがあったわけだけど、こういう流れのなかですごくハマった感じがしました。