西洋では《神様の虫》と呼ばれるナナホシテントウ(写真提供:写真AC)

 

日本人は「接写レンズ」、西洋人は「広角レンズ」

重松 益虫じゃないとダメなんだ。日本では古くから虫は文学的でもあります。四季の移り変わりとセットになっていて、春にチョウ、初夏にはホタル、コオロギが鳴き始めると秋とか。

奥本 俳句につながる文化です。

重松 季語になってますものね。

奥本 江戸時代の俳句に「行水の 捨てどころなし 虫の声」(上島鬼貫)というのがあります。庭で行水の水を捨てると虫の声を止めてしまう。虫がいないところを探すけれど、どこにも虫がいる。

重松 これがヨーロッパだと……。

奥本 気にせずバーッと水を撒く。

重松 虫の声は雑音でしかないと。

奥本 英語で虫は「bug」です。

井上 あ、パソコンの不調、不具合をバグと言いますね。

奥本 コンピュータ内部に蛾が入っていたことに由来するそうです。

井上 ここでも悪い意味ですね。

奥本 日本では、絵画や工芸品にも虫のモチーフが使われます。でも、西洋絵画でトンボやカブトムシなんて見たことないでしょう。

井上 虫に興味がないのですか。

奥本 日本人の目は「接写レンズ」で、目を凝らして小さな虫を見て、文化として昇華させてきた。一方、西洋人の目は「広角レンズ」。風景などはしっかり見るけれど、猫より小さいものには目を向けない。

重松 ということは、フランス人のファーブル先生というのは……。

奥本 相当な変わり者です。そのファーブルを30年かけて翻訳する僕も変人です。(笑)

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