「あえて言うなら、幸せに生きていくのが仕事、でしょうか。そんな毎日がとっても楽しいです。」(撮影:沼畑直樹)
単身で渡米し、ハリウッドで活躍。その一方で、常に心身の不調に悩まされてもいた。生活を見直した今、「今日もいい一日だった」と思える日々が幸せだと気づいて──(撮影=沼畑直樹 構成=平林理恵)

広大な土地を日々、耕して

富士山を眺めながら田畑を耕し、自分の食べるお米や野菜はできる限り自分で作ると決めてから、もう15年になります。

最初は電気も水道もないところにプレハブの小屋を建て、30坪の畑で野菜作り。その後、居をかまえて腰を据え、本格的に農業に取り組むようになりました。徐々に土地を広げ、現在、田んぼと畑を合わせるとかなりの坪数まで増えています。

たった一人でのスタートでしたが、今は夫が支えてくれていますし、助け合える仲間もできました。2007年にオープンしたオーガニック・カフェでは、自家栽培の野菜で作った料理を提供しています。

好きなことを一所懸命やっている感じで、どれが本業とか、何が仕事で何が仕事ではないか、といった考え方はしていません。あえて言うなら、幸せに生きていくのが仕事、でしょうか。そんな毎日がとっても楽しいです。

わが家でとれるお米や野菜は、すべて無肥料、無農薬にこだわった自然農法で作られています。カフェで出すポタージュの材料も、日々の食卓で口にする野菜も。当初は、農薬や化学肥料に頼らない有機農法でやっていたんですよ。

でも、野菜が軟弱でみんな害虫に負けてしまうのです。同じ場所で育つ雑草は強く元気なのに、なぜ? という疑問が湧いてきて。それから、苗を育てるときの肥料や種から見直して、試行錯誤しながら自然農法に行きつきました。

通常より手がかかるため、畑が広いわりに収穫量は少ないです。カフェで使う分と自分たちが食べる分がせいぜいで、販売するほどはとれません。でも、家族とカフェのお客さんには、美味しくて身体にいいものを食べてもらえる。もうね、それだけでいいなあ、と思うんですよ。

身体にいいという意味では、農作業そのものも健康づくりに役立ちます。お日さまを浴びて真っ黒けになり、手は泥だらけ。畑から引き抜いた間引き人参を、土だけはらってそのまま食べることもある。すると土の中にいる微生物も一緒に身体に入り、腸内環境を整えてくれます。今、土壌菌のサプリメントが人気ですけれど、農作業をすれば土壌菌は自然と体内に取り込めてしまうのです。

もちろん、それですぐ健康体になるわけではありません。土壌をよいものにするには膨大な時間が必要ですが、人間の素地作りも同じ。栄養たっぷりの米と野菜を食べて、自然に触れながら身体を動かす生活習慣があってこそ、土台ができあがっていきます。健康のために最も大切なのは、実はこういう日々の積み重ねなんですよね。