「『これをやってみたい!』と思う心のままに新たな一歩を踏み出してきたからこそ、自分の世界が広がったのだと思います。」

まさか大学院に進むなんて

4年間の大学生活は今振り返っても大変なことばかりでしたが、興味のあることを勉強できたのは楽しかったですよ。大学に入ってからは、それまで考えもしなかった方向に世界がどんどん広がっていったことも新鮮でした。

3年生でゼミを決めるとき、ロボット工学を選んだのも想定外。そもそも予防医学を学びたいと思って早稲田に入学したわけですが、希望していたゼミの教授が定年で退官し、予防医学を専攻できなくなってしまったのです。

その状況を知った20代の同級生から、「このゼミが人気だよ」と教えてもらったのがロボット工学のゼミです。そこで私が制作した正しいスクワットを検証するロボットにある企業の方が注目して、「この先、大学院に進むつもりなら、うちの会社と共同研究をしませんか」と声をかけてくださった。

大学院に進むなんて考えたこともなかったけれど、せっかく一緒に研究しようと言ってくださっているし、大学の4年間だけでは、たどり着きたかった境地に到達していないことにも気づいて、修士課程に進学することにしたのです。

修士課程の間に声をかけてくださった企業と一緒に開発したのが、高齢者の健康を支援する「ロボット・ロコピョン」です。高齢化が進むと、足腰が弱って動けなくなる「ロコモティブシンドローム」で寝たきりのお年寄りが増えるという深刻な問題を知ったことが、このロボットを開発したきっかけです。また、当時、がんを患った父が病院で寝たきりの生活を送っていたことも少なからず影響しています。

当初、父は自分で車いすに乗れるほど元気だったのですが、入院生活が長引くにつれて全身の筋力が衰え、ベッドで寝たきりに。いったいどんな思いで過ごしているのだろうかと、あるとき、父が看護師さんに連れられてトイレに行った隙に、父のベッドに寝てみたんです。そうしたら、目に入ったのは無機質な天井だけ。一日中、父はこの天井を見つめて寝ているだけなのかと思ったら、たまらなく切なくなって……。

最後まで幸せな人生を過ごすためには、やっぱり自分の足で歩けなきゃいけない。そのためには健康なうちから足腰の筋肉を鍛えておく必要があると、高齢者の方にスクワットを習慣づけるためのロボットを作ったのです。