習仲勲と息子の習近平(左)・習遠平(右)兄弟、1958年(https://ja.wikipedia.org/wiki/習仲勲
中国が生んだ世界的女優、チャン・ツィイーは、伝統的な秘密結社をルーツにもつ怪しげな政党に所属していた──。中国共産党の対外工作を担い、マスク外交にも顔を出す「中国致公党」はどんな存在か? 『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中公新書ラクレ)を上梓した中国ルポライターの安田峰俊氏が、知られざる結社の正体を描く。

統一戦線工作を担う怪しい政党

前回の記事でも書いた通り、秘密結社・洪門をルーツに持つ「中国致公党」は、中国共産党の衛星政党になることで現代中国の体制内でも存続を許されている。

致公党は中華人民共和国の建国前から共産党との二重党籍者を幹部として受け入れていたうえ、1960年代の文化大革命で古参党員が大ダメージを受けたことから、1980年代以降は完全に共産党の外郭団体に等しい存在になっている。

もっとも、《外郭団体》だからといって彼らの仕事がゼロだというわけではない。

むしろ「中国致公党」という、外国人どころか同胞の中国人にすら耳慣れない名前の組織ゆえに、中国共産党の名前を出すことなく中国政府に有利な活動をおこなえる強みがある。こうした致公党の立ち位置が最も活かされるのは、共産党の統一戦線工作(統戦)のチャンネル役を引き受けるときだ。

現代中国における「統戦」とは、まず対内的には宗教団体や知識人・民間企業・新社会階(民間企業の管理職やエンジニア、弁護士、各種フリーランサーといった改革開放経済下で台頭した現代的職業の従事者)などの共産党に包括されていない中国人を対象に、党への親近感や忠誠心を持たせる―─。ひいては、彼らの間に「中国共産党的」な世界観や思考フレームを定着させるための政治工作を指す。

いっぽう、対外的には、国外の親中国的な勢力(たとえば在外華人や中国に関心を持つ外国人)に「交流」を働きかけて中国共産党の認識を刷り込んだり、彼らに中国の国益に見合う言動をとるよう仕向けたり、もしくは海外の反中国運動を分裂・弱体化させたりする政治工作を意味している。さらに香港・マカオや台湾を、漢字の意味通りに中国本土に「統一」していくための政治工作も統戦の大きな柱のひとつだ。

こうした統戦工作を主管するのは中国共産党の統一戦線工作部で、在外華人に対する働きかけ(僑務工作)も党統戦部の指導下にある。中国の代表的な僑務工作組織は5組織あり、「五僑」と通称されている。すなわち、国務院僑務弁公室・全人代華僑委員会・全国政協港澳台僑委員会・中華全国帰国華僑聯合会、そして中国致公党だ。

中国共産党から見た致公党の存在意義は、僑務を中心とした党の統一戦線工作の役に立つという一点にこそある。なかでも重要なのが、現在もなお海外各地の華人社会に大量に存在している洪門組織に対する統戦工作だ。