筆者が見学させてもらった、バンクーバーのカナダ洪門の施設内。関帝を祀った忠義堂と、洪門の象徴である紅花亭。カナダ国旗と中国国旗が左右を飾る

洪門、カナダの反日ムーブメントを動かす

私が過去に取材したカナダ洪門をはじめ、いまや中国国内の致公党と積極的に交流している海外の洪門組織は、台湾の組織を含めて、ほぼすべて中国共産党を積極的に支持している。報道を観察する限り、近年になり中国政府の影響を特に強く受けているとみられるのは、北米・中南米とオセアニア、フィリピンなどの洪門組織だ。

たとえば、チベット・ウイグルの民族運動や台湾における泛緑陣営(台湾自立派)の政権獲得、対日歴史問題や尖閣問題、香港デモといった国際問題が持ち上がるたびに、各国では中国政府を支持する華人のデモがおこなわれたり、現地の華人団体が反対声明を出したりする。これらにしばしば協力しているのが現地の洪門である。

特に広東系の華人が多いカナダでは、香港出身の議員が国政や地方政治に進出し、選挙支援に洪門が食い込む例がいくつも見られる。こうした議員らが華人票をより多く獲得するため、「祖籍国」中国の愛国主義イデオロギーと合致した法案を提案するケースもある。

なかでも代表的なのが、香港生まれのカナダ連邦議員であるジェニー・クワン(関慧貞)だ。2018年に南京大虐殺の記念日を国家レベルで制定することを求める動議をカナダ議会に提出するなど、対日歴史問題に強硬な政治活動が目立つ華人の女性議員である。

彼女はブリティッシュ・コロンビア州議時代の2004年4月に、カナダを訪問した中国致公党の当時の主席・羅豪才と会見しているほか、上記の南京記念日制定のための署名活動に先立ってバンクーバーやカルガリーのカナダ洪門組織を訪問するなど、洪門や致公党との関係が非常に近い。

(このあたりの話は拙著『もっとさいはての中国』に詳しい。もっともジェニーの政治活動は、別の香港系カナダ人が立ち上げたCANADA  ALPHAという強硬な対日歴史問題追及組織から直接的な影響を受けており、カナダ洪門は側面からサポートする立場である。ただし彼女以外にも、洪門と接触がある複数の華人系の地方議員が各地で中国共産党を支持する政治活動をおこなっている。)

さておき、中国共産党の愛国主義イデオロギーが、統戦工作のカバー団体である致公党の「洪門外交」を通じてカナダ洪門に伝わり、それが華人のカナダ人議員の政策に反映され……、という玉突きゲームのような現象は、ある程度までは存在している。

致公党を通じて海外華人社会に浸透する中国共産党の統戦工作は、近年無視できない
影響力を持ちつつあるのだ。