「結婚というスタイルは、無理してとらなくていいと思う。でも、誰かと暮らす以上、『1人だったらもっとなにかできたかも』は相手も考えてるかもしれないね。」

「威厳なんて邪魔なだけ」

いとう 僕、(鼎談の)10日前に父を亡くしたんです。コロナ禍だし、家族でこぢんまり葬儀をやることにしたんですけど、「よければ、僕も入れてくれませんか」って、みうらさんが1人でやってきて。

清水 へー。親友とはいえ、あの人は優しいところがあるね。

いとう 僕と棺を担いで、霊柩車に乗せてるんだから(笑)。前に、親と一緒に旅行したことがあって、それでそういう申し出をしてくれたんですね。でもみうらさんには喪服がないでしょ。シャツを探したら、最初ドレスシャツが出てきちゃって、とりあえず着てみたんだって。でも彼はいま、ひげをめちゃくちゃ生やしてるんですよ。

清水 なんなんだ。(笑)

いとう 遺体の向こう側から、「鏡見たとき、3大テノールに見えたから、慌ててシャツを替えたよ」なんて言うんですよ。僕が沈まないように、彼なりに考えてくれてるんだよね。

清水 お父さんは、長く闘病してらしたの?

いとう 少しずつボケてきて、施設に入ってました。でも母は、行かなくていいのに、すごく面倒をみようとしちゃうんです。仕方なく同じ施設に入れたら、父の代わりにあちこち謝って回ってる。「90歳まで連れ添って、お父さんのためにそこまでしなくていい。お母さんには幸せになってほしいんだよ」と言っても、「私は嫁にきたんだから」の一点張り。

清水 責任感なのか、「好きでやってる」なのか。私の両親も同じだったけど、あの世代には「自分の幸せ」という概念が、あまりないような気がするね。

いとう でもそんな世の中、ダメだと思うんだよ。90の妻が夫に最後まで必死に尽くし続けるなんてさ。だから僕は「明るくボケよう」って自分に言い聞かせてる。(笑)

清水 「ボケない」じゃないところがいいね。

いとう みうらさんにも言われたの。「僕らはいつか介護されるんだから、家庭のなかでもかわいくいなきゃダメだ」って。威厳なんて邪魔なだけ。すごい発想だと思った。