ものをつくって生きてきた人間として

幸福とか不幸とかは、客観的には成り立たない概念です。本人が幸福だと思わなければ、いくらほかの人が「あの人、幸福ね」と言ったところで、幸福とは言えない。まったく主観的なものです。

幸福な人生かどうかは、結局はその人の価値観次第です。この歳になっても、まだ筆をとらなければならないのかと思う人には、私のような人生は不幸でしかありません。

価値観は、千人いれば千人違います。その人にとって、自分はこれが一番良かったと思える一生がいいとしか言えない。満ち足りている人は、自分の価値観を持ちうる人なのでしょう。自分の置かれている境遇に対して、こんなはずではなかったのにと思っているようでは、永遠に幸福にはならない。要は気の持ち方で、人生は幸福にも不幸にもなりうるのではないかと思います。

これまでの私の人生は、作品をつくったということしかありません。子どもを育てたわけでもないし、何もないです。ものをつくって生きてきた人というのは、結局、それに賭けたのですから、当然と言えば当然なのでしょう。ただ、普通のありきたりの生き方でもなかったし、ありきたりのものをつくっていたわけでもない。非常にユニークなものである、ということだけは事実です。

しかし、それがこの世に、ずっと地球の上に長く残るかどうか、人々にどういう影響を与えうるかはわかりません。こればかりはアートの持つ宿命で、後世の人に委ねるほかないことです。