「老いることにあまりたくさんのいい点はない。だからこそ、老いて初めて得られるものは非常に貴重です。ありがたいと思わなくては。」(撮影:岩関禎子)
3月1日、美術家の篠田桃紅さんが老衰のため亡くなりました。享年107。書の域を超えて、独自の表現を続けてきた篠田さん。名エッセイストとしても知られ、最新著書『これでおしまい』(講談社)がいまなお発売となるなど、その研ぎ澄まされた感性、凜とした生き方は多くの人を惹きつけてきました。『婦人公論』2018年4月24日号では、105歳を迎えた篠田さんにインタビュー。アートを仕事に選んだ自分の人生は、非常にユニークなものであると語りました。追悼の意を表し、当時の記事を2回にわたり配信、今回は後編をお送りします

<前編よりつづく

昨日の線と今日の線は違う。日々新たなものが宿る

私の仕事は一見、同じことの繰り返しのように見えます。墨の線を引いて、かたちをつくっていますから。でも、繰り返しではありません。昨日引いた線と、今日引いた線は違います。一本一本の線を創造しています。創造する喜び、ありがたさは私にとってかけがえのないもので、線には日々新たなものが宿ります。

百歳も過ぎると、生物としては衰えていく一方。歳とともに私の線も変化しています。線の力強さは体力とともに衰え、その代わり、歳を経たからこそ深まった思考などが、線に深遠さを増しているように思います。

とは言っても、老いることにあまりたくさんのいい点はない。不自由で困ることのほうが多い。だからこそ、老いて初めて得られるものは非常に貴重です。ありがたいと思わなくては。人は無駄に歳を取っているわけではないと思えます。