「いい日旅立ち」「魅せられて」「異邦人」…

そうして78年にCBS・ソニーでの「メディア戦略」第1弾としてプロデュースしたのが、矢沢永吉さんの「時間よ止まれ」です。発表するや反響を呼び、たちまちミリオンセラーになりました。

同年に手がけた第2弾は、国鉄(現・JR)のキャンペーン企画で、山口百恵さんの「いい日旅立ち」。作詞作曲は、谷村新司さんに依頼しました。ミリオンセラーを記録したこの歌によって、山口百恵さんは国民的な歌手へと成長したのです。

さらに、第3弾も好評をいただきました。79年にワコールのイメージソングとして制作したジュディ・オングさんの「魅せられて」です。話題を呼んだ孔雀のような衣装は、本人を囲んでイメージを出しあい、生まれました。霊能者の王麗華先生から「酒井さんの守り神は孔雀明王です」と言われまして……。私の故郷である和歌山県の高野山には孔雀明王像が祀られているので、その一致に驚き、縁起を担いだのです。

同年、三洋電機製テレビのCMに起用された久保田早紀さんの「異邦人」が、メディア戦略の第4弾。300万枚を超える大ヒットになるという喜びも重なりました。当初、三洋電機からは「アフガニスタンでCMを撮影しますので、シルクロードの大地にふさわしい歌がほしい。新人でお願いします」という注文がきて、脳裏に浮かんだのが、当時短大生で、CBS・ソニーで研修生のような立場だった久保田小百合さん──後の久保田早紀さんでした。

実は、プロデュースした歌がどの程度売れるのか私に予測できるのは、10万枚まで。ミリオンセラーは、関わる人たちの運や時代のタイミングによって生まれる予期せぬ出来事なのです。だからこそ、メディア戦略の4部作すべてがミリオンセラーになったのは、嬉しかった。

【酒井さんがプロデュースした主なヒット曲】

1978年 「時間よ止まれ」 矢沢永吉
       「いい日旅立ち」 山口百恵
1979年 「魅せられて」 ジュディ・オング
       「異邦人」 久保田早紀
1980年 「裸足の季節」 松田聖子
       「さよならの向う側」 山口百恵
1981年 「お嫁サンバ」 郷ひろみ
1982年 「哀愁のカサブランカ」 郷ひろみ
1984年 「2億4千万の瞳」太田裕美
1987年 「はいからさんが通る」 南野陽子
1990年 「もう誰も愛さない」 郷ひろみ
1994年 「言えないよ」 郷ひろみ
2013年 「満天の瞳(ほし)」 氷川きよし