「父はおしゃれな人で、2人でデパートへ服を買いに行くのが楽しみだった。だから私を指名してくれたんじゃないかな。誇らしかったし、ありがとう、と思いました。」

手術まであと1ヵ月、という6月、まず父にだけ言いました。「お母さんにどう話せばいいかな」と相談する感じで状況を打ち明けると、「その声色なら、お前は大丈夫みたいだな」とさらりと応じてくれたのがありがたかったですね。

母には手術の1週間前、弟も一緒に食事をしているときに言いました。絶対泣くよなあ、と想像できたので、その隙を与えないくらい早口で説明した。「……ってわけで、大丈夫だから!」と締めくくろうとしたけれど、案の定「どうしてもっと早く言ってくれないの」と泣かれてしまいました。そりゃあ母からすれば、「どうして友まで」ってなるでしょう。うーん、だから言えなかったのよ、と思うしかありませんでした。

 

私を指名してくれて、ありがとう

無事に手術を終えて自宅に帰ると、父から呼び出しがありました。父はいよいよ最期を迎える時期にあり、私に片づけを頼みたかったようです。胸をつってるから、まだ腕がうまく上がらないんだけどな、と思いつつ、リハビリのつもりで手伝うことにしました。

父の最後の衣装を考えたのも、そのときです。父は「シャツはこれ」と、ビーズの刺繍の入ったディオールのお気に入りに決めていて、私はそれに合わせるパンツとプラダのかわいいローファーを選びました。「金具が多いと燃やしてもらえないらしい」と言うので、シンプルなベルトをクローゼットから取り出すと、満足そうにうなずいていました。

父はおしゃれな人で、2人でデパートへ服を買いに行くのが楽しみだった。だから私を指名してくれたんじゃないかな。誇らしかったし、ありがとう、と思いました。でも決めた衣装を母が見つけたら、きっと泣いてしまう。その日がくるまで袋に入れて隠しました。