タカラジェンヌになりたい!

それから幾度も舞台を観るうちに思いは募り、ついには「私もあの舞台に立ちたい! タカラジェンヌになりたい!」と考えるように。しかし当然、宝塚音楽学校に入らなければタカラジェンヌにはなれない。音楽学校に入れる年齢は、中学3年から高校3年まで。50代の私は、まったくお呼びでない。

高校生のときに受ければよかった……。もっとさかのぼれば、小学生でバレエを習いたいと思ったとき、どうして諦めてしまったのか。後悔が募る。必死に願う私に、母は「貧乏人はバレエなんて習っても仕方ないでしょ。そろばんにしなさい」と。その時点で少女の夢はくだかれた。そろばんがいくら上達しても宝塚には入れない。

すべてが遅かった。今の世では、到底無理だ。でも、今度こそ諦めたくない。そこでふと、来世があるじゃないか、という思いに至った。私は次の世があると信じている。現世で努力すれば、もしかしたら来世ではその記憶が残り、タカラジェンヌになれるかもしれない。こうして、「来世のタカラジェンヌ計画」がスタートした。

まずは、ダンス。自宅から歩いてすぐのところに、「ジャズダンススクール」があった。「これだ!」と、すぐに入会。先生は、私よりも少し年齢が上の方で、明るく言った。「11月に発表会があるの。それを目指して、少しずつ練習します。振り付けを覚えていきましょうね」。

おおっ、ステージ! 宝塚の地方公演があるときに使われる会館で踊れるらしい。頭の中は、舞台で颯爽とポーズを決める自分の姿。それから、週1回、夜2時間のダンスレッスンに通いはじめた。タカラジェンヌのすばらしいダンスを観ては、「あんなふうに踊りたい! 練習すれば私にもできるはず」と思っていたのに……。