「性善寺」の前でほほ笑む柴谷さん。「性的嗜好や性自認などで苦しむ人たちに『それは悪ではない。ありのままのわが身を生きてほしい』と伝えたいという思いから《性善寺》と名付けました」(撮影:霜越春樹)
大阪府北部の守口市。京阪電鉄京阪本線の守口市駅から徒歩7分ほどの住宅街に小さな寺、大徳山浄峰寺・通称性善寺(しょうぜんじ)がある。ここを「LGBTなど性的少数者が集える寺」として活動するのは、三代目住職で尼僧の柴谷宗叔さん。自身も性同一性障害に悩んだ過去がある。彼女が若き「男性記者」だった時代から知るジャーナリストが心境を聞いた(構成=粟野仁雄 撮影=霜越春樹)

廃寺寸前の寺を譲り受け初めて住職に

「性的マイノリティ(少数者)が集える寺を作りたい」という念願がかなったのは2018年のこと。寄付金を集めて、寝屋川市にある実家の敷地内に寺を建てようとしていたのですが、お金が足りなくて。困っていたところにお遍路仲間から、守口市にある浄峰寺の二代目住職の女性が、高齢で施設に入り、廃寺になりかけて後継ぎを探している……という情報が入ったのです。

見に行くとその年の6月の大阪府北部地震の影響で一部が壊れていたけれど、修繕で事足りそうでした。浄峰寺は都合のいいことに、どこの宗派にも属さない単立寺院でした。初めてご本尊を見た時、何年も放置されたお釈迦さまがにこっと微笑んだ気がし、ここで頑張りたくなりました。

先代住職は日蓮宗の尼僧でしたが、真言宗の私が入ることは可能でしたので、寺の荘厳を変え、護摩壇を新たに設けました。ここは檀家寺ではなく、信者寺です。宗派は問いませんし、無宗教の方でも気軽に立ち寄れます。

性善寺という名称は仏教用語の「悉有仏性(しつうぶっしょう)」という性善説(だれでも仏様になれる素質がある)から名付けました。性的嗜好や性自認などで苦しむ人たちに「それは悪ではない。ありのままのわが身を生きてほしい」と伝えたいという思いからです。私も幼い頃からずっと、性自認の問題で悩んできましたから。