「座談会 上方おんな愛憎廻り舞台」誌面

忘れもしない2月の26日でした

夫婦であるとともに、舞台人としては同じ劇団の劇作家と女優という関係だったふたり。『婦人公論』の企画で浪花千栄子の人生をたどった演劇研究家・戸板康二は、以下のように書いている。

「〔浪花千栄子は、〕夫の脚本で、いつも、ひとのいやがる役、ことわった役を一手に引き受けた。『亭主の脚本で、一番いい役をとったといわれたら、一座の統制上支障を来たす』という大義名分を、天外から申し渡されたからである」(「物語近代日本女優史 浪花千栄子」『婦人公論』昭和54年7月号)

そうして公私ともにひたすら尽くしてきた千栄子だが、ある時破局を迎える。44歳の天外が女優・九重京子と不倫をしたうえ、子どもが生まれた。そして、愛人のもとに走ったのだ。当時でも耳目を集めるスキャンダルであった。

「とにかく、日常生活でもたいへん手のかかる人でした。ですから、さっと出て行かれた時は、わたし、なんにもすることのうなりました。忘れもしない2月の26日でしたが、それからぼんやりしてしもうて…」(「上方おんな愛憎廻り舞台」)

鼎談の相手の菊田一夫もおもわず「おぼえている、日にちまであなた…」と声をかけるほどの仕打ち。