秋吉 セクシーという枕詞がついたマリリン・モンローだって、本当は知的な女性だったと思いますよ。女性が多くの男性から愛されるためには、賢さを隠す必要があるんじゃないかしら。松井さんが書かれた『疼くひと』も、そのあたりに着目しながら拝読しました。主人公の燿子(ようこ)が、70歳にして久しぶりに落ちた恋に、私も学びたいなと思って。

『疼くひと』松井久子 中央公論新社

松井 秋吉さんのほうが上手(うわて)だと思うけれど。

秋吉 私、自分が浮世離れしていることは認めます(笑)。芸能界は、きらびやかな存在がひしめく《花街》のような場所ですから。一般社会で出会う妻や母である女性たちは地に足がついているな、聡明だなとびっくりするんですよ。

松井 私が描きたかったのも、地に足がついて強(したた)かに生きている普通の女。『疼くひと』は、70代になった私自身のファンタジーを描いた小説なのです。その結果として、読者に勇気や希望を与えるものになっていれば嬉しいなと思ってます。

秋吉 私は今66歳で、70過ぎてからの性愛については未体験ゾーン。燿子が自分のプライドを含めた理性と、セックスを渇望する本能との間でどう折り合いをつけるのか、とても興味がありました。

松井 15歳年下の男性・沢渡(さわたり)から「好きだ」と言われても、燿子は「もう70歳だし」と躊躇して、なかなか恋に飛び込めない。恋心を抑えるのか、理性をかなぐり捨てるのか――燿子の心が揺れる過程を丁寧に書き、自然な流れを作ることに力を注いだつもりです。