「私は70歳になったとき、『かつてこれほど自由だったことがあっただろうか』としみじみ思いました。親にも子どもにも、わずらわされることがない年代。」(松井さん)

松井 正解はありませんが、勇気を出して飛び込めば、新たな扉が開かれるかもしれない。私はその可能性を探ってみたかったんです。

秋吉 年齢を重ねた女性であればあるほど、常にヒリヒリしながら恋愛や性愛と向き合っている。でも、男性が描く女性像には、ヒリヒリ感が欠落しているように感じてしまって。男性の中には、「お母さん」か「夢の女性」しかいないのかしら。

松井 男性にとって「都合のいい女」と感じることも多い。

秋吉 いっぽうで、松井さんの小説にはリアリティがあります。燿子は「恥ずかしい」と「気持ちいい」を行ったり来たりしながら、いつしか体の快楽を精神的な充実にまで広げていく。そうした心理描写に共感を覚えました。

松井 よかった。私にとっては小説を発表すること自体が一か八かの大きな賭けだったので、そのお言葉を聞いて本当に嬉しいです!

 

70代は、実は《性愛適齢期》

秋吉 書いているご本人のセックス観はどうなんですか?

松井 秋吉さんのように、自由で大らかでありたいけれど、なかなか……。個人的な話になりますが、私は女性の生き方をテーマに描いた映画を監督してきて、女性の共感を得ることができたと自負しています。

そのいっぽうで、燻(くすぶ)り続けているものがありました。それは女性の性を描くことを避けてきた、という思い。映像では無理だと考えていたことが、文字の世界ならできるかも、と。

秋吉 それこそが、『疼くひと』をお書きになった理由ですね。作品のベースになっているのはエロスではなく、時代の流れに伴って変容する性のありようなんだろうなと思いました。